1.誰が主役なのか
中小企業においても中期ビジョンの作成が当たり前になってきた。筆者も多くの企業で作成の支援をしてきているが、作るからには、思いのこもったものにしたい。どうすれば、「絵に描いた餅」にならずに済むのであろうか。
まず、考えなければならないのは、この作成した「中期ビジョン」の主役は誰なのか、ということである。主役とは、実行していく社員であり、その成果を受け取る社員である。その社員たちが蚊帳の外になっているのでは、形骸化してしまう恐れがある。自分たちのものとして受け止められるようにしておかなければならない。
ビジョンの最終年の5年後、退職もしくは第一線からリタイアしていることが予想される布陣で作成しても魂は込められない。
2.トップダウンの部分はどこまでか
一方で、全てをボトムアップにすると、使い物にならないビジョンが出来上がる。ある会社でも出来上がったビジョンが何かピンとこないので、検証してくれ、という依頼があったので、チェックしてみて驚いたことがあった。ピンと来なかった理由は簡単である。トップが押さえていた事業のコアの部分にまったく触れていないビジョンになっていたのである。そして、そのトップがある意味独裁的に決定していた項目もすっぽりと抜けていたのである。
つまり自分たちがわかっていること、できることから全社のビジョンを作っていたのである。結果として、全社の売上やその構成比、利益額がビジョンに示すことが出来ていなかった。数値計画が骨子になるという原則がわかっていないとこうなる。これでは、改善計画でしかない。
3.参画意識を高める
ビジョンを遂行していく社員を作成メンバーに加えることが、ビジョンの実行度を高めることになる。限られたメンバーになってしまうが、それをどのように広げていくかも工夫が必要になる。ある企業では、各部門のキーマン(次期部長、次期取締役クラス)の下にチームを作り、分科会を設置、そこで参加者の幅を広げた(中間管理職)。ビジョンの発表も全社員の前で、分科会に参加したメンバーも加えて実施した。それにより、聞いていた社員も、自分たちといっしょに仕事している多くのメンバーが、自分たちの言葉で発表している姿を見て、「これを自分たちが実行していくんだ」という気持ちになってくれる。
社員が共感し、共有する仕組みを作ることで参画意識が高まり、全社一丸となってビジョンを遂行していく空気が生まれる。魂が入った瞬間である。