1.権限委譲か人材育成か
筆者は、組織における「責任」には、「質量保存の法則」ならぬ“責任量保存の法則”が働いていると感じている。仕事ができる上司の元では、なかなか部下が育たないのはここに原因があるのではないだろうか。仕事のできる上司が部下に対して「無責任だ」という発言をしている場合、本当に任せているのかどうか、確認しないといけない。任せていない状況は、責任を取らなくてもよい、というメッセージを送っているのと同じであり、部下の責任感を強くすることにはならない。いつまでたっても上司に頼る部下のままである。
頼りないから任せないという意見も聞くが、にわとりが先か卵が先かの議論である。仕事を任せて責任を持たせることなく、人材が育つことはない。
2.信頼関係なき人材育成はない
仕事を任せない、ということは部下から見れば、信頼されていないと感じてしまう。信頼関係がない、無責任状態である、というところに人を育てる環境が整っているとは言えない。業務の範囲が広がっていく、仕事の量が能力アップとともに増えていく、それをこなしていくための生産性をあげていく、というステップアップが望ましい形である。
そのためには信頼関係を構築し、権限委譲を図りながら人材を育成していくことが重要となる。まずは、部下を信じることからなのである。
「権限委譲」に関する課題を抱えている企業は多い。明確な決裁権限規定がある企業も少ない。ルールがないから結局、一番偉い人の意思確認をすることになる。そうすると確認していないものは、許可を得ていないものになってしまう。
3.トップが権限を抱えては組織の成長はない
トップが全てのことを把握するのは、無理があるし現実的でない。しかし、部下は耳に入れないと怒られると思って、全てを報告する。報告されるから結局判断する。
トップが権限を抱えて、誰にも任せない状況では、部下の成長は図れないし、組織としても成長しない。確かに任せるのは勇気がいることである。気になるのもわかる。しかし、任せないことには、社員は育たないのである。そして、しばらくは継続して任せることも必要となる。すぐに「ダメだ」と任せた業務を取り上げては意味がない。多少の失敗も組織でフォローする必要が出てくるかもしれないが、そこも忍耐が必要となる。
任せない組織は、社員がお客様ではなく、トップ(上司)の顔色を見て仕事をするようになる。優先順位の逆転が起きていないか確認しておくことが重要である。