【第112号】幹部の思考停止

1. トップがやり過ぎると

 ある企業においてタナベ経営の「性格能力判定テスト」を実施していただき、幹部の個別面談を実施した。その企業の幹部の特徴に、“低い思考性”があった。不思議に思ったので、質問項目にそれとなく混ぜてみたら、その原因が見えてきた。
 その企業は老舗企業であるのだが、3代にわたってすばらしいリーダーシップを持った経営者に恵まれた。当然、経営者はリーダーシップを備えていなくてはならないのだが、もうひとつ強烈なトップダウン体質でもあったということがあった。おそらく、その3代の中の一番最初の方が、その時の経営環境もあり、素晴らしいリーダーシップの元、会社を牽引していったのであろう。それを部下がしっかりと支えるうちに、「大事なことはトップが考える」が習慣になり、幹部の思考性が低下、次のトップはその考えることをやめてしまった幹部に指示を出すうちにトップダウン型が定着していったのではないだろうか。

2. 制度の機能不全

 こうなると業績管理から人事制度まですべての制度の運用が曖昧になる。思考停止の弊害があちらこちらに発生してしまうのである。
 どうしたらよいのか、が中途半端になってしまう。そして、判断基準が「好き嫌い」や「目に付く(目立つ)」という定性的なものが優先されるようになる。人事考課においても、自分との相性で良い悪いを判断したり、声が大きい、オーバーアクションなど、普段の立ち振る舞いが目立つ人間を頑張っていると評価したりすることになる。
 また、組織全体が保守的になり、チャレンジ精神も低下する。改善や工夫も見られなくなってしまう。
 会議も伝達事項が中心となり、意思決定の場でなくなる。議論することがなくなってしまう。そうなると組織としての発想も貧困となってくる。クリエイティブな仕事ができなくなってくる。

3. 思考性の回復は時間がかかる

 怖いのは、この傾向が多くの企業で見られることである。思考力の回復には時間がかかる。「考える習慣」を身に着けなくてはならないからである。そこから、「考え方」を学ぶ。それもただ、考えるのではなく“本質とは何か”を考えなくてはならない。
 以前にもこのコラムで触れたが、仮説を立てていかなくてはいけないのであるが、この仮説を立てられない。情報収集能力が低下していて、どこにその情報があるのか、どういう情報が有益なのかがわからない。
 症状は決して軽くない。みなさんの会社も「思考停止状態」に社員が陥っていないか早めのチェックが必要である。