【第89号】何をあきらめるか

1. 捨てなければ次がない

 前回のコラムで、時間の使い方についてふれた。限られた時間の中で何をするか。つまり、「何をしないか」でもある。筆者もやりたいことすべてをスケジュール通りにこなそうとすると24時では足りなくなる。仕事の質を維持するためにも睡眠は必要だし、体力を維持するために食事の時間も必要である。仕事をする準備も必要、情報をインプットするために新聞・雑誌に目を通す時間も必要・・・ときりがない。
 そうすると「何をしないか」が重要になる。削らざるを得なかった時間は、TVを見る時間(ニュースと天気しか見ていない)、趣味の時間(料理もしていない、カメラも娘の行事だけ)、スポーツジムへ行く時間(仕方ないので朝、たまに散歩するぐらい)である。
 削った時間を取り戻すには、仕事の生産性を更にあげるしかない。今、している仕事の密度をいかにあげるか、である。

2. 基準をつくる

 仕事の世界だけでなく、事業の世界も同じである。事業計画を作成するときに、何を捨てるかの戦略(撤退戦略)を明確にしないと、あれこれ取り掛からねばならないものばかりが増えていくことになる。
 何を継続し、何を捨てるか(止めるか)。これは基準を作っておかないと、“聖域”が生まれる。「創業者が始めたことだから」「もう少しで黒字になるから」「重要な得意先がいる事業だから」と赤字を垂れ流している事業にもかかわらず、止めるという決断ができないでいるものが多い。これ以上は続けないという「終わり」(基準)がない状態では、危機感も生まれないし、やり方を変えようというモチベーションも働かない。
 基本は赤字は1年で解消する。新規事業は3年で黒字化。それを支える経営指標を明確にし、進捗管理する。

3. 進化させていく

 生産性をあげるには仕事のやり方を「進化」させていかなければならない。同じやり方を続けているだけでは、自分の仕事は“止める側”になりかねない。
 生産性を向上させ付加価値を高めることが、自分の存在価値を高めることにもなる。
 進化させていくためには、工夫が必要である。その中で仕事の質とスピードの関係は悩ましいところである。自分の現在の能力で発揮できる仕事の品質というのは、仕事を始めて一定期間を過ぎると上がらなくなる(能力の限界である)。その見極めができないと、いつまでもダラダラとひとつの仕事を終わらせらずに続けることになる。「これ以上良いものはできない」という判断ができるかが重要となる。