【第326号】ムダの効用

1.“あそび”はなぜあるか

 車のハンドルやブレーキなどには、かならず“あそび”がある(ハンドルについては、徐々になくなってきているという話しもあるが)。それは、遊びがないために、人間の操作がダイレクトに伝わると機械の性能をそのまま引き出してしまい、危険になることがあるからだ。「高速時にちょっとハンドルを切ったら・・・」「ブレーキにちょっと足を乗せたら・・・」。あそびがあるから、ダイレクトではなく、徐々に反応することで、車の動きをスムーズにしてくれる。日本人はこういう事は得意だし、それは文化でもあった。意思疎通においても、「直接伝えずに、遠回しに伝える」、比喩などを使う、慣用句を用いるなどだけでなく、日本語は、表記がひらがな、漢字、カタカナと抱負にある。漢字も当て字を使い造語を作ることもある。伝達手段のあそびは多く有る。

2.メリハリ

 メリハリはよく使う言葉であるが、語源を知っている人は少ない。もともとは、邦楽用語の「乙甲(めりかり)」が語源であり、音の高低や抑揚という意味で使われている。ずっと、高い音では、音楽は表現できない。ずっと強い音だけでも表現できない。聴いている側も疲れてしまう。人間の生活も同じである。力を抜く期間があるから、力を入れる期間が生まれる。集中する時間があるから、リラックスする時間が生きてくる。充実した人生のためには、このメリハリが必要なのである。そのためには、規則正しい生活を送る、丁寧に仕事を進める、目的のある休日の過ごし方をするなどがポイントとなる。ダラダラと過ごしている時間は、「メリ」の時間ではない。

3.組織の役割分担

 ムダな人員を排除して、少数精鋭で戦う。これがここ数年の流れであった。確かに人件費は下がるし、一時は生産性があがる。しかし、これは前述の「あそび」や「メリハリ」を組織から奪ったのではないだろうか。結果として、組織内における殺伐とした雰囲気や、活力を奪ってきた気がしてならない。日本人は、まじめで勤勉である。なかなかうまく気分転換できなかったり、ゆっくりと休むことが苦手であったりする。それが、組織内におけるあそび(余裕)を失ってしまっている。余剰人員を抱えろ、ということではなく、意識して、余裕を作っていく必要があるということである。気持ちの余裕、時間の余裕。今の企業には、人間関係で悩む、コミュニケーションで悩む組織が多い。それは、組織における余裕がなくなっているからなのであろう。